仕事人ファイル9 露天商(テキヤ) 鈴木さん(仮名)60歳
映画『男はつらいよ』の主人公、“フーテンの寅”さんこと車寅次郎の生業が的屋(てきや)。定年後にテキヤになろうと思う人もあまりいないと思うが、たまたま知り会ったのでリアルな実体験を語ってもらいました。
―なんでテキヤというのですか?
鈴木:「当たればもうかる」ってことから的矢に例えて言われたらしいよ。
―寅さんのような口上は?
鈴木:寅さんのアレね、「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」ってのだろ?やらないよ今時は。
―どんな仕事ですか?
鈴木:テキヤには、お祭りとか、お寺の参道なんかで、綿菓子、焼きそば、たこ焼きなんかを売るのと、スーパーの駐車場や道端で果物、魚なんか売るのがあるけど、おれは後の方だ。
鈴木:駅前の路地に軽トラ止めて、魚を売ってる。売るのはイワシとかの干物だよ。
―売れるんですか?
鈴木:売れるよ。七輪で焼いて、試食してもらうと売れるんだ。うまいよ、なにしろ炭火焼だからね、
鈴木:テキヤの品物は、悪いものは売ってないよ。二度とお客が来なくなるからね。しかも店が無いから、安く売れるしね。
―仕事の流れは?
鈴木:だいたい朝9時頃、池袋の事務所に行く。そこから軽トラに乗って、大泉の冷凍倉庫に行き、品物を積み込む。それから、その日の商売の場所に行って店開きさ。それが大体10時頃かな?
鈴木:平台に品物並べて、七輪に火を起こして、魚を焼くんだよ。まあ、午前中はほとんど売れないから暇だね。
鈴木:忙しくなるのは夕方だよ。どんどん売れるよ。お客さんは、年配のおばちゃんとかおばあちゃんが多いね。お馴染みさんもいるよ。いつも買ってくれるお婆さんは、あんたがいるから買いに来たったら言ってくれる。ありがたいね。
鈴木:夕方暗くなってきたら店じまいだ。荷物を軽トラに積んで、事務所に返して終わり。6時か7時頃だね。
―給料や待遇は?
鈴木:朝9時頃から夕方6時頃まで、8時間か9時間働いて、俺の日当は1万5千円。週に2~3日くらい。現金払い。交通費なし。休憩は人がいれば取るけど、一人だと取れないね。
―この仕事を始めたきっかけは?
鈴木:俺の本業はフリーのカメラマンなんだ。CMとかTV番組のね。でもこの不況で仕事が減ってね、まあ年齢もあるんだろうけどね、早い話が食えなくなっちゃったのさ。
鈴木:で、どうしようかと。何しろつぶしの効かない仕事だろう、会社員の経験もないし。そしたら、たまたま久しぶりに会った高校の同級生が、池袋の組でテキヤをやっていたんだよ。それでね、始めたんだよ。
ヤクザですか?
鈴木:テキヤは渡世人の「博徒」(ばくと)や「やくざ」とは違うね。「七割商人、三割ヤクザ」の稼業人、どっちかと言うと商売人だよ。
鈴木:縄張りも、博徒は「島」と言うけど、テキヤは「庭場」と言うんだ。
鈴木:俺は組員でも何でもない、ただのアルバイトだよ。暴力も嫌いだし。でも、警察からは準構成員みたいにみられるね。俺みたいのを「ネス」っていうらしい。ネス湖の怪獣みたいに、プロなのかトーシロなのか正体がわかんないから。
―資格や能力は?
鈴木:そんなもの何もないよ。組に入る必要もない。この仕事を紹介してくれた友達は組員だけど、俺たちアルバイトは全くの堅気だよ。ヤクザ者とかかわることもほとんどないね。ヤクザは嫌いだよ。
―仕事上のトラブルは?
鈴木:ヤクザは嫌いだけど、時々絡まれることがある。一度、商売物を載せた平台が、ほんの少し地割からはみ出していたんだ。
鈴木:若いのがすっ飛んできて、えらい剣幕で平台をひっくり返されたよ。その日は商売ができなかったね。
鈴木:あとは、年末になると普段プラプラしている連中が〆縄を売り始めるんだ。ガラの悪いのが5~6人も露店にたむろしてさ。売れるわけないよね。
鈴木:それでね売れないから、こっちに買ってくれって言ってくるのさ。1500円の〆縄が2万円だよ。物腰は柔らかいけどガラの悪いのが何人もいるんだよ、揉めるのも嫌だから買うんだけどね。脅しだよ。
―良いところは?
鈴木:気楽な商売だよ。露店で勝手にやっているだけで、誰にも何も指図されないからね。でも、時々トラブルがあるから、神経の細い人には向いていないかもね。
取材後記―
テキヤ業界の先行きは暗い。元々が零細企業の集まりだし、最近はテキヤ組織とは無関係なフリーマーケットなどで、趣味的に商売する一般人も多くなってきた。テキヤが商売できる場所も日数も減少している。月に10日の仕事で15万円の収入では、若い衆が育たない。反社会的勢力とのつながりは肯定できないが、縁日の風物詩としての露店が消えて行くのは少々寂しい気がする。
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