巣鴨ポピーは、入り口からして地味です。セブンイレブンと富士そばに挟まれた狭い入り口から地下に降りたところ、いつからあるのか分かりませんが、20年前から利用しています。
その頃から、すでに「くたびれた感じの店」でした。
店内は、20年以上変わっていません。
全体にすすけたセピア調なのは、照明のせいだけではありません。
積年のたばこの煙で、白い壁が黄色くなっているからです。
天井も少し剝がれかけています。
しかし、純喫茶としての誇りは揺るぎません。
地下なのに、壁には木枠をメルヘンチックに組んだ観音開きの窓。もちろん開きません。
天井にはシャンデリア、壁にはチューリップ型の照明、ボックスを仕切るのは彫り物入りのガラス板。
お客は、地元のおじさんおばさんだけです。
アポロキャップのおじさんが新聞を読み、買い物帰りのおばさんが世間話をしています。
長身のウェイター兼マスターも20年前から老人のままです。
何も変わらない、何も壊れない、不思議な店です。
価格はリーズナブル。
コーヒーは390円。ナポリタンや焼きそば600円。
セットで頼むと、690円とめちゃ安です。
でも、味はしっかり喫茶ナポリタン。老舗の味です。
作家の梶井基次郎は、小説「檸檬」で、みすぼらしく壊れかけたものへの愛着を表現していました。
「何故だかその頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。風景にしても壊れかかった街だとか、その街にしてもよそよそしい表通りよりもどこか親しみのある、汚い洗濯物が干してあったりがらくたが転がしてあったりむさくるしい部屋が覗(のぞ)いていたりする裏通りが好きであった。雨や風が蝕んでやがて土に帰ってしまう、と言ったような趣きのある街で、土塀(どべい)が崩れていたり家並が傾きかかっていたり――勢いのいいのは植物だけで、時とするとびっくりさせるような向日葵があったりカンナが咲いていたりする。
時どき私はそんな路を歩きながら、ふと、そこが京都ではなくて京都から何百里も離れた仙台とか長崎とか――そのような市へ今自分が来ているのだ――という錯覚を起こそうと努める。」
ー梶井基次郎著「檸檬」より抜粋
漫画家のつげ義春さんも、リアルな貧乏は嫌だが、貧乏くさいものをを見ると心落ち着くという気持ちを「リアリズムの宿」で描いていました。
ポピーは、壊れかけた、古びた、でも何も変わらない、落ち着く店です。
巣鴨ポピー
東京都豊島区巣鴨2-1-1
JR巣鴨駅前ロータリー
TEL03-3918-4372
営業時間
平日7:00~21:00
土日祝7:00~19:30年中無休
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