自ら通報し逮捕される中毒者
Sさんは、自分から警察へ通報して逮捕された。しかし覚せい剤の事で通報したのではなかった。何故、警察に電話したのか?
シニアに急増する覚せい剤中毒。止められない理由を中毒者に聞いた。
女性が監禁されている
Sさんはマンションに事務所を構えている。ある日、隣の部屋から女性の「助けて」という声が聞こえた。その声は何週間も続いた。
これは放っておけないと、Sさんは警察に通報。隣に女性が監禁されていると訴えた。すぐに警察が出動、隣の部屋に踏み込んだ。だが、そこには何もなかった。
それでもSさんは騒ぎ立てた。今度は壁にマイクを当て録音を始めた。数週間後、証拠のテープを持ち再び警察に駆け込んだ。テープには数名の男の声が録音され、どのように監禁しているか明らかになると。
早速テープが再生された、しかしそこからは雑音しか聞こえてこない。Sさんは雑音テープを再生しながら、ほらココで女性が悲鳴を上げた、ココで悪事の相談をしていると熱弁をふるった。
さすがに不審に思った警察が、今度はSさんの仕事場を捜査、そこで覚せい剤が見つかりSさんは逮捕された。
幻聴幻覚の果てに自ら逮捕されたSさん。しかし今でも隣に人が監禁されていたと固く信じている。自分もそのテープを聴いが、やはり雑音しか聞こえなかったのだが…。
止められない理由3・無反省 M子22歳 万引常習者
薬物更生施設入所者 地方都市のドラッグクイーン
M子:家は普通のサラリーマン家庭。面白半分で17歳の時に、クラブでMDMAをやってからハマった。地元のクラブじゃ知らないやつがいないくらいのドラッグクイーンになっちゃって、薬と男をキメまくってた。
M子:そのうち、やばくなったんで東京に出てきて、ヤクザの情婦になった。ヤクザならクスリに苦労しないからね。でもそのヤクザとトラブルがあって命がヤバくなったんで、ココ(薬物更生施設)に逃げ込んだの。
M子は、万引きの常習犯だ。しかも決して捕まらないプロ。でも急に持ち物が増えるので、更生施設の人間に問い詰められる。するとあっさり白状する。
その度に更生施設の人間に伴われて店先で土下座をする。しかし、全く罪悪感を感じていない。ケロッとして、また万引きを繰り返す。
更生施設がM子の脳を検査させたところ、前頭葉が委縮していたそうだ。前頭葉は、善悪の判断をする部分だ。ここが委縮すると、一片の悪気もなく万引きなどを行うことがある。この事は以前「ピック病」の記事に書いた。
それでも私は後悔しない
M子に最後に聞いた質問は、
「覚せい剤のことを後悔している?」だった。
更生中だから、後悔しているという答えを予想していた自分はあっさり裏切られた。
M子は躊躇なく答えた。
「後悔していません。あの体験はやったことのない人には分かりません。この世で最高の体験です。私はそれを知っているんです」
それまで、控えめだったM子が、その時は、上目線の傲慢な態度で答えた。まるで覚せい剤を知らない人間を憐れんでいるような目だった。
後悔していない、その一言に衝撃を受けた。中毒者は心のどこかで、覚せい剤は一生を引き換えにするだけの価値がある特別な体験と信じているのだ。覚せい剤を止められない最大の理由はこれかも知れない。しかし、どんなに素晴らしい体験と言えど、それは幻想、ニセモノの人生に過ぎない。
覚せい剤はロシアンルーレット
取材の最後に都立松沢病院の医師に聞いた。
医師:実は覚せい剤の体験者は意外に多くいます。軽い気持ちで一度や二度手を出した人は。しかし、だれもが中毒になるわけではない。酒やタバコやギャンブルもそうですよね。
医師:覚せい剤はロシアンルーレットです。その時の状況、肉体、精神の状態、いろんな条件がそろって、これ以上は無いというくらい最高の体験をしてしまう時、ロシアンルーレットの弾を引いてしまうんです。当たったら最後、やめる事は非常に困難です。
ロシアンルーレットを引いたら、全てが終わる。
その後ー
この取材をしたのは今から3年以上も前の事だ。しかし、覚せい剤の問題は未だに何も変わらず、むしろ深刻化すらしているように思う。
取材した3人のうち、Sさんのお嬢さんからは2年前に連絡があった。再び覚せい剤に手を出し、刑務所に服役中との事。お嬢さんは、居酒屋でアルバイトしながら父の帰りを待つと言っていた。しかし、その後連絡は途絶えた。
M子は姿をくらました。
Fさんは、息子さんが飲食店で働くようになり、覚せい剤には二度と手を出さないと言う。その言葉を信じたい。
覚せい剤を断つ、それもまたM子の言ったように、体験したものしか分からない地獄の苦しみなのだろう。
しかし、どんなに辛くとも二度と覚せい剤をやらない事を祈りたい。そして本当の人生を生きて欲しい、家族のためにも。
*取材対象者は当時の年齢を記しています。
覚せい剤中毒者の本音 なぜ止められない?3つの理由ーそれでも私は後悔しない(1)
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