仕事人ファイル5 交通誘導員 戸塚さん(仮名) 58歳
電機メーカーを早期退職。交通誘導員歴3年。交通誘導員が恐れるベンツの怖さとは?
戸塚:交通誘導ではベンツはやばい。いや乗っている人がヤバイんじゃなくて、車そのものがねヤバイんだ。
戸塚:前に誘導してた時、ベンツが仲間の体ギリギリのところを掠めて行っちゃったんだ。その後、靴がヌルヌル滑るんで、脱いでみたら、仲間の足がペッタンコになってたんだ。
戸塚:足を轢かれたんだよ。そん時は気がつかなかったんだね。靴の中は血だらけさ、足が完全に潰れてた。でも相手もわからないし、労災はなんとか下りたけど、一生障害は残った。
戸塚:私も、それまで運動靴で仕事してたんだけど、翌日ワークマンに安全靴買いに走ったよ。つま先に鉄板が入ってるやつ。ベンツは戦車みたいに重たいから、きれいに足をプレスするんだね、だから轢いた方も轢かれた方も気が付かないんだよ。
戸塚:その点、トラックターミナルは安心だよ。プロのドライバーだけだからね。
―どんな人たちが働いていますか?
戸塚:60代以上のベテランが多いね。ほとんど定年退職者か私みたいなリストラ組だよ。
―現場の空気は?
戸塚:昔は変なのも多かったらしいけど、ここの誘導員はまともな人が多いよ。元サラリーマンばかりだからね。礼儀も常識もあるよ。フルタイムで働く人と、こずかい稼ぎで週3回くらいの人が半々かな。
―仕事上のトラブルは?
戸塚:たまに誘導を無視する運ちゃんがいるんだよ。急いでんだろうけど、危ないよ。注意すると、気が荒いのとは言い合いになる事もあるよ。
戸塚:けど、ほとんどのトラックの運ちゃんは気さくで優しいよ。運転席から顔だして挨拶したり、栄養ドリンクや缶コーヒーを差し入れてくれたりする人もいるよ。
戸塚 : あとは、道を聞かれたり、落とし物を届けられることがあるんだ。道はもちろん丁寧に教えるよ。でも落し物は困るんだ。誘導員は、警察官じゃないから預かれないんだよ。交番に持って行ってくださいと説明すると、嫌な顔されることもある。
―良いところは?
戸塚:トラックの出入りは、ピークの時間が決まっているんだ。だいたい2時間おきだね。それ以外はパラパラだから、暇な時間も多いよ。
戸塚:思いやりがある職場だよ。暗黙の了解で、みんな勤務の30分前に来て交代するんだ。前任者にもう上がっていいよって。結局自分も30分前に行くから同じことなんだけど、気持ちが嬉しいよね。つらい仕事だから助け合う気持ちが強いんだよ。
―嫌なことは?
戸塚:一般道で誘導していると、ドライバーに怒鳴られることがあるんだ。回り道しなきゃなんないから通らせろとか、こんなところで工事やるなとか、バカヤロー呼ばわりはしゅっちしょっちゅうだ。急いだんのはわかるし、迷惑かけてるとも思うから、コッチはひたすら低姿勢で頭下げるんだけど、正直ムカつく時こともあるよ。
戸塚:自分で選んだ仕事だから文句は言えないけど、やっぱり昼夜逆転の生活は辛いね。朝9時に終わって、報告書書いて、着替えて家に帰ると11時。それから飯食って、風呂入って、寝るのが12時。夕方5時に起きて、飯食って、7時に出勤。何もできないよ。家族ともろくに顔を合わせてないしな。寂しい時もあるさ。
―どんな人が向いていますか?
戸塚:歩行者を誘導棒で止めるのは禁止、必ず手で止めてお辞儀する事になってるのに、中には横柄な態度で誘導棒を歩行者に向かって突き出す奴がいるんだよ。必ずトラブルになるね。警察にでもなった気分なんだろうな。
戸塚:確かに下手な警察官より場数を踏んでいる分、誘導はうまいと思うけど、あくまで迷惑をかけているという意識を持たないとダメなんだ。交通誘導のプロという自覚は大事だけどね。
戸塚:イヤホンを耳に突っ込んでラジオ聴きながらやったら、たまたま元請警備会社の社員に見られて、首になったのもいる。暇が多くても危険と隣り合わせって忘れない事かな。
―資格や能力は?
戸塚:交通誘導の仕事は、正式には交通誘導警備って言うんだ。だから私たちも警備員だよ。研修もあるしね。特に資格はいらないし、誰でもやれる。きつい仕事だけど、稼ぎたい人には向いていると思うよ。
取材後記―資格も何もないシニアがそれなりの収入を得るには、多少のつらさは我慢する。そんな覚悟が戸塚さんのインタビューから見えてきました。次回は別な仕事人を取材します。
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